日本人と日本酒との関係

日本人と日本酒との関係

神社に祀られる日本酒

日本人の生活に深く根付いている日本酒

 

日本酒が他のお酒と違うのは、昔から冠婚葬祭や神事など日本人の行事に深く関わってきただけでなく、現在でも変わらず慣習のなかに日本酒が存在している点です。日本人の多くは自らを無宗教だと思っていますが、知らず知らずのうちに「神道」の精神と、「仏教」の感覚が浸透しています。「お天道様(太陽)が見ているから悪いことはできないよ」と小さい頃から、親に叱られたり、自然やあらゆる物を神とする、という感覚が根付いています。多くの日本人は、それを「宗教」だとは思っていません。伝統や習慣に近い感覚です。そんな日本人の生活に「日本酒」は、欠かせない存在です。稲は、古代神話に登場する最も重要な神から授かった神聖な植物とされ、この稲からなる米を発酵してつくられる日本酒は、神様へ捧げる特別な飲み物とされてきました。

どんな場面で日本酒が出てくるのか、見ていきましょう!

結婚式

結婚式で使われる日本酒の酒樽

結婚式や会社の開業、店の開店、新幹線の開通などお祝いの場で「鏡開き」をします。酒蔵で、酒樽の上蓋のことを鏡と呼んでいたことに由来します。新たな出発に際して健康や幸福などを祈願し、その成就を願う意味が込められています。神前の結婚式のときにも、「三々九度(さんさんくど)」という新郎新婦がお酒を酌み交わす儀式をおこないます。現在過去未来を表す大きさの違う三つの杯を使って、三回で注ぎ三回で飲み、新郎新婦合わせて合計九回神酒を飲むというもの。それぞれの数は奇数で、2で割り切れないことから、結婚する2人の固い絆を結び一生苦楽を共にする、という誓いを意味しているそうです。

葬儀

葬式で使われる日本酒

日本では故人を火葬する葬儀の前夜に、夜通し灯りを消さずに、ご遺体を見守る「通夜」という儀式があります。親族や親しい友人などゆかりの深い人々が集まって、故人の冥福を祈り、別れを惜しみます。遺族は夜通し灯明と線香の火を絶やさないようにします。そこでも故人の家族からてなされるのが「日本酒」です。もちろん御礼の意味も兼ねているため、現代の嗜好にあわせてビールやウイスキーなども揃えられますが、「日本酒」であることにはちゃんと大切な意味があります。

700年代に書かれた書物でも、現代に通じる記録が残されています。

 

殯(もがり)と言って、人が亡くなってもすぐに埋葬せず、小屋のようなものを作って、死者が骨化するまでの1~3年もの間遺体を安置しました。その間、死者の霊を慰めるため食事を供え、死者の霊を呼び戻すために小屋のかたわらで酒を飲み歌ったり踊ったり宴会が行われていました。当時、死者の霊は災厄をもたらすと信じられていて、災厄から逃れるために魂が亡骸から離れていくのを防ぐ、あるいは死者の魂を呼び戻すためだったといわれています。

日本では米が生命力の源泉と考えられていて、米から作る酒には死がもたらす災いを遠ざけるとされてきました。とくに葬送儀礼では、生命の源である米や米からつくられた日本酒を取り込めば、災難を遠ざけると思われていました。

地鎮祭

地鎮祭で使われる日本酒
地鎮祭と日本酒

家を建てる前には「地鎮祭」といって、土地の神様に「無事家が建ちますように」「家が建った後も家族を守ってくれますように」と祈りを込める儀式がおこなわれます。祭壇にはしめ縄、榊が施され、米、日本酒、塩、水などが供えられると決められています。

祭り

祭りの風景
日本酒と祭り

祭りは稲を植える前には、五穀豊穣を祈り、収穫後には感謝を込めて神を山に送る、という儀式が祭りの原型でした。この稲からなる米を発酵してつくられる日本酒は、神様へ捧げる特別な飲み物なのです。神に供えた後は人々が飲みますが、日本酒を飲むと酔います。かつて科学が解明されていない時代には「酔う」という現象が理解できないものでした。いつもおとなしいひとが陽気になったり、おかしなことを言い始めたり、記憶がなくなったり・・・。そのため昔の人たちは、酔っている人を神と近付いている状態だと理解したのです。それから同じ甕や盃の酒を仲間とともに飲むことで、一体感を高めていました。現在でも祭りには、その地域の日本酒がふるまわれ、みんなで飲み交わすことが多いです。

初詣

初詣の浅草神社
初詣と日本酒

初詣や厄除けなどで神社に訪れた際にいただくこと日本酒は、御神酒(おみき)と呼ばれます。御神酒は、神様にお供えする日本酒のことで、神社や神棚にお供えする神饌(しんせん)のひとつです。神饌とは、神前に供えるお酒や食べ物の総称で、お餅や魚、野菜や塩などがあり、大変神聖なものとされています。大昔は神社や氏子(地域の住人で、その土地の神社にいる氏神様におまつりをする人)が御神酒を造っていましたが、現在は酒税法によって免許がなければ酒づくりができないため、地域の酒蔵がつくった日本酒が奉納されます。ただし伊勢神宮や大神神社など一部の神社や神宮は清酒醸造免許を持っているため、今でも自分たちで御神酒を造って、供えています。御神酒を飲むときには、マナーがあります。地域により異なるマナーがある場合もあります。神社の人の言うことをよく聞き、正しく守りましょう。

正月

おせち料理と日本酒
お正月と日本酒

正月には「屠蘇(とそ)」というものを飲みます。もとは中国から伝わった文化で、一年間の疾病を払い、長寿を願うものとされてきました。山椒・細辛・防風・肉桂・乾姜・白朮・桔梗の薬を合わせた屠蘇散がつくられ、それらを日本酒や味醂(みりん)に浸し置いてから、正月に飲みます。「一人これを飲めば一家疾なく、一家これを飲めば一里病なし」と言われていました。スパイスの内容を見ても、正月の疲れた胃腸に優しい内容になっており、実用的です。現在では一般家庭で、正式な屠蘇と作り飲む人は減りましたが、ドラッグストアなどで「屠蘇散」が売っているのでそれを使って飲む人や、簡略化して日本酒をそのまま飲む人もいます。

店頭に並ぶ日本酒一升瓶
店頭に並ぶ日本酒

それから日本全国にはたくさんの地域に根差した日本酒が存在します。そこで、風習とは別に実家に帰省する際に、今住む場所の日本酒をお土産に買って帰ったり、親戚宅への手土産にする、逆に地元に帰ってくる我が子や孫、甥、姪のためにおもてなしの日本酒を用意しておくことも多いものです。古くからの文化のなごりとプレゼントが融合して、年末年始に日本酒を飲む人は多いのです。

まとめ

日本酒と日本人との強い結びつきは、稲作がはじまり、酒をつくるようになってから現代に至るまで長い歴史があります。年々なくなっていく文化もありますが、今もまだ生活に深く根付き、いろいろなところで日本酒は大切にされ、他のお酒とは別格の扱いをされています。物事のすべてに意味があり、科学で解明され説明ができる、と考えると、人は傲慢になり、他人を責めやすくなり、お互いすこし窮屈な思いをします。万物に神様が宿り大切にしなければならない、と思う時、事象の前で人はみんな平等になります。日本人の思想は、優しい気持ちで日々を生活するための知恵だったのかもしれません。そんな名残ともいえる、日本酒にまつわる文化。これからも大切にしていきたいものです。